『マリオカート ワールド』

2025.5.21

世界の地続き感

結果的に物量が増えたというお話が出ましたが、今回たくさんコンセプトアートを描かれているんですね。

石川

広い世界がテーマだったら、レース以外の一面も見せられるじゃないかと、
デザイナーからいろんなアイデアが出てきました。
キャラクターがいて、風景があって、その土地にあった衣装があって、
何か食べていて・・・地続きの広い世界をイメージして、
そこで生活しているような情景が浮かぶスケッチもたくさんありました。

衣装については乗り物とセットでデザインして、
ポスター風の絵をつくったりして。

おや、「マリオカート」なのに、コンセプトアートではカートに乗らずに食べ物を食べているようなものも描かれているんですね。

矢吹

「いろんな食べ物を食べている姿を見せたい」
っていうアイデアは、初期から出ていました。

軸丸

変化に富んだ広い世界をめぐるなら、
その土地ならではのご当地グルメは欠かせないだろうと。

でも実は、フードの仕様は一回やめようとしたんです。
ゲームに組み込むとなると、フードだけじゃなく
それを売るお店や、そこで働く店員さんも必要で、
これまた物量勝負になってしまうって。

でも、それがどこかの時点でまた復活した?

軸丸

はい、開発している途中、二年越しぐらいに、
「やっぱりどうしても食べたい・・・!」と(笑)。

諦めきれずに、手元でつくってみたハンバーガーのモデルを
食べられるようにプログラマーに実装してもらったんです。
それがチーム内でも評判がよくて、
デザイナーがもりもりつくってくれて。
あれよ、あれよという間にバリエーションが増えていきました。

石川

担当のデザイナーがノリノリでつくっていましたね。
マリオにちなんだアレンジや小ネタもいろいろ入れたりして、
本当にたくさんのデザインが生まれました。
私も見ていてすごく楽しかったです。

佐藤

そのフードを販売しているのは「Yoshi’s」っていう
ゲーム内にある架空のお店なんですけど、
ドライブスルー形式で世界各地にあるんです。
それぞれの土地にちなんだフードをヨッシーたちがつくっていて。

世界中に「Yoshi’s」がチェーン展開してるんですね。

石川

そうなんです。
火山だったら火山っぽい店構えの「Yoshi’s」があって、
そこではクッパにちなんだアツアツのスープが売っている、みたいな(笑)。

軸丸

そうやっていろいろつくっていたら・・・矢吹さんがツカツカとやって来て。
「マリオって、モノを食べたら変身するんだよ」って、言うんです。
なんか重みのある感じで(笑)。

矢吹

もともとフードとは別で、いろんな衣装をつくっていたので。
これを組み合わせられないかなと考えていたんですよ。

あっ、最初はフードと衣装は、関係のないものだったんですか。

矢吹

まったく別のものでしたね。
服屋さんでコインを支払って服を買う、みたいな話もあったんですけど、
そうするとお店で停まって買わないといけないので、
せっかく走り続けられる世界があるのに、テンポが崩れてしまうんです。

そのときフードのアイデアが出てきたので、
じゃあドライブスルー形式で走りながら食べて、
食べた結果着替えたり、別のキャラクターに変わったりしたらどうかなって。
まったく常識的な話じゃないんですけど(笑)。

でも、マリオの世界では違和感のないことかもしれません。

矢吹

そしたら、今度は
「マリオは実際キノコを食べてるんだろうか?」という話が出てきて(笑)。

軸丸

開発途中で手塚さん※8に確認しに行ったんですよね。
「あれって食べてるんですか?」って。

※8手塚卓志。執行役員・企画制作本部プロデューサー。「スーパーマリオ」シリーズの中で、主に2Dマリオの開発に携わる。「開発者に訊きました 『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』」に登場。

矢吹

うん。手塚さん、「キノコは食べてる」って言ってた。

一同

(笑)。

軸丸

それに、ある土地のフードを食べると、
その土地にちなんだ衣装に着替えられる、というのが
今作の設計と相性がよかったんです。

レースを走っていると、
みんな次々とその土地ならではの恰好になっていくっていうのが
見た目にもおもしろくて。

矢吹

フードに対応した衣装は
すべてのキャラクターに用意されているわけではありませんが、
フードを食べながら各地を走っているといろんな衣装が手に入るので、
いつもと違うキャラクターを使うきっかけにもなったらいいなと思っています。

そういえば今回は今まで参戦しそうになかったキャラクターもいますよね。ウシがドライバーキャラクターにいて、びっくりしました。

矢吹

そうですね、ウシはこれまでのシリーズ作では
風景の一部になっていたり、
コースの中のおじゃまキャラとして登場していたりしたんです。

でも今回、牧場のコースをつくって
そこをみんなで走り抜けるっていう試作をやっていたら、
そのときにこのスケッチが出てきて(笑)。

あっ、乗せられてるのかと思ったら、運転してる(笑)。

石川

「マリオカート」では毎回タイトルごとに
新しいキャラクターがレースに参加するんですけど、
前作でいっぱいキャラクターを追加した分、
今回はどうしようって悩んでいたんです。

そんなときに、さっきのゆるいウシのスケッチが
デザイナーから出てきて、「これだ!」って(笑)。
それもあって、実はフィールドにいろんなお宝が眠っていることに
気づいたんです。

すぐにキャラクターデザイナーがウシもレースを走れる形で試作してくれて、
そしたら意外と違和感もなくて。

じゃあ他にも同じようなキャラクターを
登場させられるんじゃないかということで、
プクプクやサンボもレースに参加することになりました。

結果として、昔からコースにいたおじゃまキャラたちを
レースに参加させると、
世界の地続き感という意味でもしっくり来るようにも思いました。

佐藤

こういうキャラクターをNPCドライバーって呼んでましたね。
ノン・プレイアブル・キャラクター(Non Playable Character)。

矢吹

NPCなのにドライバー?どっち?みたいな(笑)。
四足歩行のウシが前足でバイクのハンドルにぎってるって、
ちょっと面白いですよね。

石川

でもジャンプするときは、ちゃんと四足歩行のポーズを取るんです。
きっと動物の気持ちはわすれてないんだろうなって(笑)。

軸丸

NPCドライバーがいろいろ出てきてくれたおかげで、
新アイテムであるカメックのアイデアも生まれました。
カメックに魔法をかけられると
レース参加者がNPCドライバーの姿に変えられてしまうんですが、
レース中に次々とウシになっちゃったりして。
今までにないユニークなアイテムになったなと思います。

実はウシは結構いろんな発想のきっかけになったキャラクターで、
おじゃまキャラのラクダやキリンも、
みんなウシから生まれたアイデアですよね。

石川

ウシは、実は「マリオカート」シリーズでは
大事なキャラクターなんです(笑)。

朝日

一方で、ウシたちのように今までNPCだったキャラクターが
ドライバーとして動くとなると、
新たな感情表現も必要になってくるし、
ボイス担当は大変だったと思います。

マリオたち定番キャラクターと比べて見劣りしないように
NPCドライバーの個性やキャラクター性を表現することを意識していました。
理想の音を求めて、ボイス担当スタッフが試行錯誤を重ねて制作しました。

他にも今回はキャラクターが増えただけでなく、
キャラクターたちが運転するマシンのバリエーションも豊富なので
それぞれのマシンの特徴、例えば見た目や機構にあった
エンジン音を一つひとつつくるのは膨大な作業でした。

いろんな音をたくさん試して、理想の音を追い求めた結果
カエルの声とか太鼓の音も使ったりして(笑)。

佐藤

マシンもたくさんありますしね。
世界を走るということで、
レースで使うカートだけでなく日常的な乗り物も追加しました。

車体をデザインするだけでなく、
ドリフトするときのタイヤ変形や、ジャンプするときの動きも
考えてデザインしなければいけないので、
デザイナーは大変だったと思いますよ。

なるほど。ひとつなぎの広い世界を走るからこそ、いろんな走り方やシチュエーションに対応できるマシンをデザインしたんですね。

石川

そうなんです。
例えば、今作の「スタンダードカート」では、
今までよりも車高を上げたり、サスペンションの表現を描き加えていて、
走ると地面の凹凸やアクションに合わせて動画タイヤの動きも変化します。

せっかく広い世界を走るので、
サーキットのようなアスファルトの地面だけではなく、
道から外れたゴツゴツした地面も楽しく走ってもらいたくて。
プログラマーさんが挙動をこだわってくれて実現しました。

あとは、世界のいろいろなスポットやシチュエーションに合わせて
マシン選びも楽しんでもらえたらと思い、
とにかくバラエティー豊かで個性的なラインナップになるように心がけました。

デザインという意味でお訊きするんですけど、前作『マリオカート8 デラックス』では水の中を潜って進んでいましたが、今作は画像水の上を走れるんですね。

佐藤

はい。水上を走るということで、
波のグラフィックスにもかなりこだわりました。
見た目だけじゃなくて、ものが落ちたときの波紋が広がったり、
カートが走った後にちゃんと波が立ったり、
といったシミュレーションを若手のプログラマーが実装してくれたんです。

それから、狙ったタイミングで波を起こすこともできるようになっています。
今回は波を起こす敵キャラもいるので、
攻撃されたときにできる波にのってジャンプする、
という遊びもつくることができました。

軸丸

水上を走るという意味では、ウエーブレース※9と共通する点がありますね。

※9『ウエーブレース64』。1996年9月発売のNINTENDO 64用ソフト。水の上をアクセル全開のジェットスキーで駆け抜け、タイムやテクニックを競う。

石川

そうだ、軸丸さんは波でジャンプするアクションのために
白波にすごいこだわりをもっていたんです。

軸丸

ああ、よくご存知で(笑)。
波の上で気持ちよくジャンプしようと思ったら、
ジャンプするタイミングを計るために、
波の頂点が見えなきゃいけないわけです。
でも、普通に波のグラフィックスがあるだけでは
どこが波の頂点なのかあんまりわからない。

だから、頂点の部分には白いハイライト、つまり白波を
入れてほしいとお願いしました。

「う~ん、白波が見えない・・・」
「軸丸さん、できました!」
「まだ見えない!もうちょっと!」
「あと少し・・・!」
と何度もやりとりして、
担当のプログラマーに頑張ってもらいました。

そのおかげで、水上でのジャンプは
遊びの要素としても良いものになったと思います。

そこも、遊びやすさへのこだわりなんですね。

軸丸

ええ。でもそうしているうちに、もう遊びの観点だけじゃなくて、
波打ち際とか浅瀬の表現とか、水の表現に対して求めるものが
いろいろデザイン側からも出てきました。

石川

透き通って見える、水底を見せたいと思って。
最初はなかなか処理が重くなってしまうので
浅瀬で水底を見せられない悩ましさがあったんですけど、
プログラマーのみなさんにいろいろ
改良してもらって実現しました。

「ノコノコビーチ」っていうおなじみのコースも、
見せたかった絵をつくることができて・・・
佐藤さん、ありがとうございます。

佐藤

こだわりがあった分、デザイナーには
水底までつくってもらわなきゃいけなくなった苦労はあったんですけど(笑)、
おかげでグラフィックスのクオリティがあがりました。

石川

水上を走るときの音も工夫したんですよね?

朝日

そうですね。
地上と違って、水上を走るときは水の動きにあわせて
上下にこまかな浮き沈みが発生するんです。

その動きや姿勢にあわせて、音が連動するようになっています。
非常に繊細な音にもこだわってつくられていますので、
水上を走るときは、ぜひ意識して聴いてみてください。