2025.5.21
Nintendo Switch 2 で開発を進めることになったのはいつごろでしょうか。
2020年くらいに、矢吹さんから最初に話が出ました。
その時にはある程度、想定されるスペックも出ていたんですけど、 実際に手元で動く開発機が来たのはもう少し後でした。 それまでは試算しながらつくっていく感じでしたね。なるほど、想像しながら開発していたんですね。
Nintendo Switchで開発していた時は、
でもNintendo Switch 2 でこのソフトを出すことが決まって、 その悩みは一気に解消する見込みが立ちました。 当初目指していた以上に充実した表現も見込めるとわかり、 とても嬉しかった記憶があります。
Nintendo Switch 2 に移行することで、収まらなかったものが収まるようになった一方で、いろんなものを今まで以上につくり込む必要が出てきますよね。
そうですね。やはりグラフィックスの描き込みがより必要になります。
もともとデザイナーたちは「もっと絵を豊かにしたい」と思っていたので それが実現できるんだ、と。
たとえば景観の地形をつくるメンバーからすると 「木が植えられる」ということが嬉しいんです。 世界を自然に見せるうえで樹木が大事な構成要素だったりするので。
たしかに木がいろんなところにあると、自然な雰囲気は出ますよね。ところで今作のコースは世界に散らばって配置されていますが、その配置や周辺の風景はどうやって設計していったのでしょうか。
軸丸さんがざっくりとした配置検討用の図をつくって、
例えば、西にいくと乾いた気候になっていて、 シリーズに登場する「ヘイホーカーニバル」をもってきて 宮殿を建てようとか、 その近くには「サンサンさばく」があるだろう、とか。 北東は寒い地域にして雪山を目印にしつつ、 切り立った雪山の頂上も走れるようなコースをつくろう、とか。
気候風土も考えながらコースを設計していくのですが、 そのコースからコースに移動する道も シームレスにつながっていて、 気づいたら周りの風景が変わっているように工夫しました。
ひとつひとつのコースがとんがった特徴を持っているから
それをつなげていくのは難しかったですね。 既存のコースの良さは残しつつ、 ちゃんとこの世界の文脈にあうように配置していかなきゃいけない。地形リーダーが「文脈を大事にしよう」って言ってましたよね。
例えば、動画「マリオブラザーズサーキット」から、 そのままルート66※6のように広い道を走り続けて、 だんだん荒野の雰囲気に変わっていって、 その先にモニュメントバレーのようなランドマークが出てきて、 大きな都市につながっていくといいよね、とか。
シームレスにつくりつつも、 ランドマークのようなインパクトのある変化をどこに置くと 「気づいたら次のエリアに入っていた」の「気づいたら」の部分をつくれるのか、 そういった部分の工夫も必要でした。
※6アメリカ大陸を横断する旧国道。中東部イリノイ州シカゴから南西部カリフォルニア州サンタモニカまでを国立公園や砂漠、さまざまなランドマークなどを通りながらつなぐ。
なるほど。新しい世界に既存のものを入れていく難しさ、ですね。一方、ゲームプレイを盛り上げてくれるBGMの方はどのようにつくられていったのでしょうか。
そうですね。
サバイバルモードでは、まずシンプルにコース曲同士を つないで鳴らしてみました。 ただ、単につなぐだけではうまくいきません。 そんなことをすると、曲によってテンポも拍子も違ったりしますし、 やっぱりおかしくなるんです。
そこで、道は地続きにつながっていくとはいえ、 コース曲を一旦終わらせることにしました。 ゲームのBGMは通常、ループ再生をするものが多くて 今作もコースを周回するときはずっと同じBGMが鳴るのですが、 サバイバルのときは、次のコースが近づいてくると 曲のアウトロ部分に遷移して BGMがうまく終わるようにしました。
そこに、新しく用意した各コース曲の前奏部分を ゲートに入る少し前から鳴らし始めることで、ワクワク感を醸成して、 ゲートをくぐると曲が切り替わるような仕組みにしたんです。
これを繰り返すことで、自分のプレイに合わせて ライブでメドレーが流れているような感じになって 臨場感のある演出になったと思います。
では、フリーランのような進む道が決まっているわけではないモードではどのように音楽を鳴らしているのでしょうか。
フリーランなどのほかのモード用には、コース曲に加えて多くの曲を用意して
このために、歴代「スーパーマリオ」シリーズ、 「マリオカート」シリーズのアレンジ楽曲をたくさん制作しました。
音楽を工夫するだけではなくて、サウンドの鳴らし方自体も変えていったんですね。たくさん曲を用意したとのことでしたが、いったいどれくらいの数になったんでしょうか。
はい、ジュークボックス用には全部で200曲以上用意しました。
これらはすべて新規アレンジで、生演奏収録も行いました。 かなり幅広いジャンルの音楽を揃えています。
ゲーム音楽に詳しい人にはもちろん、 そうでない人にも楽しんで聴いていただけると思います。
今作は各コース同士がひとつの世界でつながっているだけでなく、天気や時間による変化もあるんですよね。
はい。つくらなければならないものの物量が
この地続きの世界で時間帯によって変わりゆく景色を描けたら・・・ 誰かが本当に住んでいそうな世界を描けたら・・・ 情感たっぷりでいいだろうなあって、 こんなスケッチを描いたりして。
でも、時間変化とか天候変化を本当に入れるかは、
チーム内でも長い期間の検討が必要でした。そう、継ぎ目のない世界が時間や天候で変わっていくのを
見せるために必要な絵をすべて用意するのは 膨大な作業になることは容易に想像できたので・・・(笑)。 一時期、やめようとしたこともありました。でも、時間や天候が変わることの魅力の方が大きかったんです。
一度やめようとしていたものも、 どうにかして実現しよう、となりました。コースづくりにおいても、
ひとつの時間帯、ひとつの天候で固定すれば、 「その条件で最もわかりやすい道」をつくりやすいんですけど、 光の方角が変わったり、明るさが変化したりするだけで、 何パターンも確認をして調整しないといけないんです。 だからみんな、いろんなことができると喜んでましたが、 つくるうえでは大変な思いもしたと思います。はい、想像していた以上に大変でした(笑)。
ただ、そこはグラフィックスを手がけるプログラマーが、 「面白いものを目指してつくっていきましょう」と、 いろんな人に協力をあおいで意欲的に実現していったんです。プログラマーもこの物量をみんなでどうこなしていくかを
でも、つくり方自体を変えて、 できるだけ作業工数を減らしたつくり方ができれば、 やれないこともないんじゃないか、と。
なるほど。プログラムも仕組みを変えて、これまでにない物量を乗り越えていったんですね。そのおかげで、走っているうちに自然に景色や天気が変わると、時間の流れをしっかりと感じられるようになりました。
だいたい24分ぐらいでゲームの中の1日が終わる設計にしています。
ゲームの中は現実よりも時間が早く進むので より時間の流れを体感しやすくなっています。 でも、たしか均等に時間が進んでいるわけではなかったですよね?最初は時間をかけて徐々に空の色が
ぜひ見てもらいたい風景があるのに、 そこを夕方から夜の微妙な時間に走り抜けてしまうと 相性が悪いな、と感じたんです。
そこでプログラマーと相談して、 おいしい時間帯をしっかり見せて、 それ以外の時間帯はキュッと短くして 一気に昼夜を切り替えるようにしています。
時間の変化をリアルにするよりも、
こうしたものも、お客さまの印象に残るにはどうしたらいいのか、 走っているときに面白い演出とは何かを考えてつくっています。
BGMもいろんな過去の「スーパーマリオ」シリーズの曲を 気持ちよくドライブできるようにアレンジしているので 一層楽しみながら遊んでいただけるんじゃないかなと思います。
これもジュークボックスの仕組みのひとつなんですが、
昼は元気に明るい雰囲気、夕方や夜はゆったりとした雰囲気の アレンジ曲が流れます。 『マリオカートDS』の「スタッフクレジット」の曲を、 今作っぽくバンドアレンジして収録しているのですが、 夕暮れのシーンに聴くと個人的にじーんとくるものがありました。
原曲をご存知でなくても楽しんでいただけますが、 いろんな「スーパーマリオ」シリーズを経験されたことのある方には 思い入れある楽曲を聴き、懐かしい気持ちに浸りながら、 ドライブしていただけると思います。
※71996年6月に発売したNINTENDO 64の同時発売ソフト。「スーパーマリオ」シリーズ初のフル3Dアクションゲームで、3D空間をコントローラーの3Dスティックを使って自在に走り回ることができた。
なるほど。ひとつの世界を構成するためにいろんな工夫が詰め込まれているわけですね。一方で新作ソフトとして、新しい遊びも盛り込んでいくことになると思うのですが、それらはどのようにしてつくっていったのでしょうか。
「マリオカート」シリーズは代々
「ドリフト」を大事にしてきたレースゲームなので、 コースもカーブ主体で設計していくのが基本でした。 でも今作では「地続きの世界」を走るにあたって、 カーブだけでなく直線を走る面白さも意識する必要がありました。直線を走る面白さ? どのようなものになるのでしょう。
例えばA地点からB地点に行く道中で
そうなると、A地点からB地点に行くという目的も分かりにくくなってしまう。 かといって、ずっとまっすぐな道を運転しているだけだと、面白くない。
じゃあ、やっぱり足りないのは直線に対する遊びだろう、ということで それが今作の新要素である画像「レールスライド」画像「ウォールラン」を 考えはじめるきっかけにもなりました。 開発チームではそれらを総称してトリックと呼んでいました。
単なる一本道だと、どこを走っていても同じ印象になってしまいますしね。
広い世界で単にまっすぐ走るだけではもったいないなって。
そんなとき、とある本に書いてあった 「スケートボードとは板一枚で街を無限にクリエイトするものだ」 という言葉がヒントになりました。
トリックがあることで、壁やダートひとつとっても 走り方がいくつも考えられる。 遊び手のアイデア次第で走り方が大きく変わって面白いんじゃないか ということで、遊びのバリエーションを広げていきました。
ちなみに「レールスライド」や「ウォールラン」といったトリックは、 スケートボードやスノーボード、BMXといったエクストリームスポーツを 参考にしています。
「あの壁を走ろう」、「あの柱を使おう」、
「ガードレールや電線の上にも乗れるかも」など、 お客さまの想像力が発揮されるんじゃないかなと思います。なるほど。ただ、アクションが追加になると、それに合わせたコースも設計しないといけないわけですよね。今回はどのくらいのコース数があるのでしょうか。
今作は単純にコースを走るだけでなく、
コースとコースの間も、レースの舞台となっています。 世界中にコースが張り巡らされてるようなもので、 そのバリエーションを数えると軽く100をこえます。あれ、矢吹さん、さきほど「今作は物量じゃなく」って言っていた気がしますが・・・。
(笑)。
ひとつながりの世界になったので前作との単純比較はできませんが、
新しい広い世界での遊びやすさや面白さを突き詰めていくと、 デザインもプログラムもサウンドも、つくらなきゃいけないものの物量は とてつもなく増えてしまいました。 結果、遊びのバリエーションもこれまで以上に増えたと思います。